散歩道から

散歩道から

散歩道から

ずっと読みたくて、それに手に入れたいと思っていた本。

本当に綺麗な本だ。
猪熊佳子さんの「緑の谷へ」という絵が表紙に使われている。紫陽花の咲く緑の中を、蝶がひらひらと、飾るように飛ぶ。この本の帯に「確かな人生の美しさ」という言葉があるが、その通り、庄野さんの書かれる文章の中にある確かな美しさをあらわすような絵だと思う。色合いもとても綺麗。ほれぼれして、ずっと見ていたい。

この本は、『誕生日のラムケーキ』の4年後に出された随筆集。その間には「さくらんぼジャム」や「文学交友録」を連載していた。宝塚観劇や大阪行きの話、ハーモニカの話、犬童球渓の「旅愁」の話、大浦みずきさん(なつめちゃん)の話など、おなじみの話題が登場して、私をホッとさせてくれた。


「森亮さんの訳詩集」(91年「新潮」掲載)で、英文学者の森亮さんが訳した詩について書かれている。その中で「白居易詩鈔」をとり上げているところがとても面白かった。庄野さんが好きな白居易の詩が紹介されている。その詩がとてもおおらかでのびやかな詩だったので、庄野さんがそれを好きだと思われることが心から納得できるように思った。

白居易を含め、好きな詩を紹介する文章は他の随筆集にも出てくるが、いつも好きな詩を引用したあと、その詩についてとてもあっさりした感想が書かれる。この詩を深く深く読み込んでそれについての自分のエピソードをあげつらねたり、そういうことをしないで淡々と紹介していく。そこがとてもいいと思った。庄野さんが、「その本を楽しむ」という心がけで本と接し、そしてこの仕事をされているのだということが伝わってくる。


亡くなった井伏鱒二さんについて書かれた作品もいくつか入っている。とくに「『還暦の鯉』井伏さん」は、井伏さんについてたくさんのことが書かれていて、まるで「井伏さんの作品についてですか、それなら面白い、いい話がたくさんありますよ」と、次から次からどんどん出してくれた、といった感じがする。そしてそのどれもが、井伏さんの人柄のよさや魅力を伝えてくれるものばかりで、こんなに良い読者はいないのではないかと思わせる。


一番最後の『英二伯父ちゃんの薔薇』は、じんとする。庄野さんが、話すことが出来ない入院中の英二さんに電話で「英ちゃん、元気になってくれなあ」と3回大きな声で呼びかける。日課の散歩帰りに、兄のいる大阪がある西方向の丹沢山塊に向かって「元気になってくれ!」と唱えていたことを、実際に本人に伝えることが出来たので満足した、という話。
「元気になってくれなあ」という言葉に、長いこと一緒に過ごした兄弟の時間がこめられている気がする。


「今日は、ざんねんにします」という意外な言葉ではじまる「『ざんねん』とでびら」もいいし、「あらまっちゃん」という言葉で、なぜだか不思議にこちらまで笑いがこみ上げてくる『子どもが小さかったころ』もいい。

庄野さんの随筆集の中の「好きな作品」をあげると、まったくもってキリがない。