インド綿の服

インド綿の服 (講談社文芸文庫)

インド綿の服 (講談社文芸文庫)

 この本を読むのは2回目。
 「貝がらと海の音」で庄野さんの作品と出会って、多分その次に読んだ作品だと思う。
 この人の書く作品を、好きだ!と直感で思ってから、「待てよ、庄野潤三さんという人は、他にどんな作品を書いているのだ?私はこの人を全く知らない。」と思い当たり、図書館に出かけてみた。そこで、最初に手にとったのが、この「インド綿の服」だった。
 この作品で、私はこれからもずっと庄野さんの作品を読み続けていくだろうことを確信したように思う。「足柄山からこんにちは」で始まる、庄野さんの長女からのお手紙のおかげだ。


 この一連の短編の中でも、とくに「誕生日の祝い」という作品が好きだ。
 庄野さんの好きな暑い夏に、足柄山の長女の家に、アメリカ、ニュージャージー州から17歳の女の子がホームステイにやってくる。同時に、長女のお腹には、新しい命が宿っている。
 作品の冒頭は、もうその新しい命はこの世に誕生していて、民夫という名前で「フニャラー」と特色のある声で泣くことが紹介されている。その子を連れて、浅間山登山をしたとも。
 そこから話は遡り、その子がまだお腹の中にいると判明したばかりの頃から、夏休みを迎えて、やがて秋がやってくるまでの、一連の流れの中の長女の手紙で物語が綴られる。


 この作品に限らず、庄野さんの「日常生活」を描く作品の中で魅力的なエピソードのひとつが、「贈り物」だと思う。小包で送られるものだとか、遊びにいったついでに届けるプレゼントだとか・・・。足柄山からもたくさんの小包が届くし、生田の庄野さんの家からもたくさんの贈り物が足柄山に送られる。
 とくに、足柄山に届けられた贈り物に対する長女からのお礼の手紙は、贈られたものがいちいち記されていて、そのひとつひとつに、惜しみなく感謝の気持ちが捧げられているようで、微笑ましい。まるで、この生活のひとつひとつ、自分が生きてきた毎日、父や母への愛情にも感謝で一杯であることが伝わってくるようだ。私は、まるで自分に小包が送られてきたような気になって、その箱をあけて中身を取り出すようにワクワクして、その手紙を読む。


 しかし一番印象深いのは、ホームステイにやってきたジャッキーからの贈り物だ。夏休みも終わりに近づき、ニュージャージーへ帰るジャッキーを見送りに家族全員で成田空港へ行った帰り、家のジャッキーが使っていた部屋の押入の中で見つけた家族へのお礼の贈り物と手紙。
 この夏、初めて訪れた国で、この家族と共に過ごせたことがどれほど素晴らしいことだったかが、この贈り物でわかるように思う。
 一年後の夏、浅間山登山道ですれ違った学生二人が狐と狸に似ていたという手紙から始まり、最後庄野さんがその写真を見て「なるほど」と納得するところでこの作品は終わる。まるで化かされていたように長くて短い季節の中で、そんなこと知らずにお腹の中で静かにすくすくと育ち、生まれた子供が健康で元気育ってくれるよう、心から思った。