おとうさん



夏ごろ、ダッフルさんの会社で残業時間の
取り決めがあり、帰宅時間が一定になった。
夏の間、夜更かしの娘と一緒に、
家に帰ってくるダッフルさんを窓から見る、
というのが流行って、毎日の習慣に。
家から大きな道路を隔てて、
信号待ちしているダッフルさんに
娘は一生懸命に手を降っていた。
そして大声で呼び掛けていた。
「おとーさーん! かが(蚊)がくるから
はやくおうちにはいってよー!!」
といった娘の呼び掛けも、
車の音でかき消されていた。


ダッフルさんは、両手を大きく振ったり、
軽く踊ったり、傘を振ったりしてくれた。
人通りもけっこうあるのに、恥ずかしがらず
よくできるものだなあと感心していたら、
帰ってから
「あー恥ずかしかった…」
と呟いていて、もっと感心した。


ある時は、ダッフルさんが両手を上げた
瞬間にちょうど通りかかった人が
驚いてビクッとなっていたらしい。
そりゃそうだ…


夏の終わりとともに、そして娘の昼寝が
少なくなって就寝が少し早くなるとともに、
この習慣も終わってしまった。
でも楽しかったから、またいつかやりたい。



だいぶ前にダッフルさんと娘が
二人でお喋りしていたとき、
「お父さんにもおっぱいはあるけど
役に立たないね」
という話になったらしく、娘がそれを
気に入って、
「おとうさんのおっぱいはやくまない
(役に立たない)」
と頻繁に言うようになった。
先日、ダッフルさんと二人でコンビニに
いるときにも大声で言われて赤面したらしい。
この間、台所にいたら、食卓にいた娘が
また同じことを言い、ダッフルさんが
「みんなはそれをきくと笑うけど、
お父さんは恥ずかしいよ」
静かに諭している声がきこえてきて
とにかく可笑しかった。



数日前、昼寝して夜更かしした娘が
会社から帰ったダッフルさんの横で
絵を描いていた。
お父さんを描くとのこと。
私が洗面所で歯を磨いていたら、
「それお父さんなの? …地獄絵図だな…
ちょっとお母さんに見せてくる」
というダッフルさんの声がして、
どんな絵だと思って見たら想像を超えていた。




この間ダッフルさんが、
「ネットで見てたら、こどもが親を慕って
来てくれる期間なんてたった10年くらいって
書いてる人がいた」
と話していた。
ダッフルさんと娘のやりとりが密かに大好き
なので、ずっとずっと仲良しの二人で
いてほしいなと思う。


しかし、最近親子3人でいると娘は
「おかあさんと!」
と言って、ダッフルさんを拒否したりする。
ダッフルさんはしょんぼりしてるけど、
それも「ふだんいない人」「優しい人」に対する
スペシャルな甘えかたの1つであると思う。
母と二人きりじゃできないことで、
娘も救われてるんだろうな。