おじいちゃんとダッフルさん



今月はじめ実家で、新潟にいる父方のおじいちゃんが
お茶を淹れている写真を見て、ゴールデンウィークにでも
一緒に会いに行こうと父と約束していた矢先。
その4日後に、父より、おじいちゃんが体調を崩して入院したと連絡がある。
おじいちゃんのお姉さんも同時に体調を崩し、同じ病院に
同じ日に入院したという。


その週末(先週の土曜日)に、おじいちゃんに会いに新潟に行った。
ダッフルさんも一緒に行ってくれた。
結婚式を挙げた年の4月に行ってから、ちょうど2年。
前回は、お家で迎えてくれた。
今回は病室。
父がメールで
「この間の写真と全然違うからね」
と教えてくれたので、会いに行ったことも気づいてくれないかも
と思ったが、おじいちゃん、ちゃんと起きている。


おじいちゃんは大正6年生まれの94歳。
耳が遠くて、補聴器もよく聞こえにくいようなので、
病室にあったホワイトボードに文字を書いて伝える。
きょとんとしていたが、父が
「次女のモチコです。だんなさんです」
と書いてくれたところ、
「ああ!」
という顔で頷いてくれて、胸がいっぱいに。



そしてマジックを握って文字を書いてくれる。
よくわからなかったけど、その後
「わざわざきたの」
と言うようなことを一こと言ってくれたので、
そんなことが書いてあるのだと思う。


「30歳になりました」(実際には来月なる)
と書いたら、じっとホワイトボードを見てしばらくして、
「へーーー!」
と高い声でびっくりしていたので、ダッフルさんと笑う。
ダッフルさんに
「身を削ったネタを披露して良かったね」
と言われる。


「手が大きくて立派ですね」
と書く。ずっと言いたかったこと。
おじいちゃんはお米やお花を作る農業をずっとしていた。
本当に大きくて立派な手。今でも力がとてもあるという。
それを見せたら、おじいちゃんが声を出して少し笑ったので、
父が
「今なんて書いたの」
ときいて、嬉しそうだった。


「昔よくじゃがいも掘りを一緒にしましたね」
と書いたら、ほーう、と少し笑って頷いていた。


「畑作業をしているおじいちゃんはかっこいいです。」
と書いたら、指で「かっこいいです」のところを
消して、笑っていた。
私もダッフルさんも大笑い。照れくさそうな、素敵な表情をしていた。



「おばあちゃんにリヤカーにのせてもらって遊んだ」
と書いたら、一転とてもしんみり悲しそうな顔で、
口に手を当てたり手を組んだりしていた。
おばあちゃんは、私が14歳のときに亡くなった。
後年は病気がちだった。おじいちゃんは今でもおばあちゃんのこと
とてもとても大好きなんだなあと思う顔だった。
今このときも恋してるという顔。


呼吸が苦しそうにしていたり、たまに疲れた表情に
なっていたけれど、喜怒哀楽がはっきりしていて
よく私と向き合ってくれた。
それから私の顔と目をしっかり、そらさないで
ちゃんと見てくれていた。目がきれい。
手も大きくてしっかりしているけれど、
触るととてもやわらかで、あったかくて、優しい手。


父とダッフルさんがタクシーの手配に行っている間、
2人きりでまた少し会話。
ホワイトボードに
「私の父も、おじいちゃんによく似てきました」
と書いたら、私の目を見て少し笑って、
うんうんうん、と何度も頷いてくれた。


「帰ります。また来るので、元気でいてね。」
と書くと、手を出してにぎる。
今度は少し強い力で、私も同じ力で握り返す。
少しまじめな顔になっているおじいちゃん。
胸がいっぱいに。
ありがとう、元気でねと言う。
離れると、手をあげてくれる。
その手の上げ方が、男らしくてかっこよかった。
ダッフルさんも握手して、同じように手をあげて挨拶してもらっていた。


前回、2年前に会いに行ったときは、
なんと14年ぶりの再会であった。
おばあちゃんの告別式以来、新潟に行っていなかったのだ。
久しぶりに会ったおじいちゃんは、しばらく経ってから、
思い出したように
「あんた、ずいぶん久しぶりじゃないかね!?」
と驚いていた。
そのときのことがずっと忘れられない。


そして、この日おじいちゃんと過ごした病室での
ほんの何時間かのひと時も、ずっと忘れられない。
おじいちゃんは私の大事な家族。
お父さんのお父さん。
私のおじいちゃんだ。


帰りの電車、窓から桜が少し見える。
私はおじいちゃんと会えた時間を思って、とてもうれしかった。


 

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父はしばらく新潟にいて、病室に一緒に泊まったりする日が
続いたが、今週になってからいったん東京に戻っていた。
そして今日、父より夕方にメールあり、
おじいちゃんの具合についてお医者さんから連絡があったので、
これから新幹線で新潟に向かいます、と連絡があった。


この間会ったおじいちゃんのまっすぐの目が忘れられないから、
どうか、おじいちゃんが辛くありませんように。
苦しくありませんように。
私が祈るのは本当にただそれだけ。
それから、あったかくてやわらかくて大きな大きな手の
感触を、ずっと思い出しているだけ。
また会いたいと思うだけ。


おじいちゃんとダッフルさんが握手していた光景は、
ずっとずっといつまでも忘れないと思う。


土曜の新潟は、雨でとても寒かった。
でも病院を出たら、とても晴れていたのだった。