母とダッフルさんと新芽

明日で、震災から1ヶ月。

今回津波で大きな被害を受けた太平洋の海沿いに行く
旅行の計画を立てていた。ちょうど地震の翌週の予定だった。
予約していた宿の方から、やっと電話が復旧したからと、
予約日の前日に「ごめんなさい、キャンセルにして下さい」と
電話がきた。胸がいっぱいに。


復興したらきっときっと伺います、と言ったけれど、
街が少しずつ再建しても、漁業の被害などでこれからも
大変だろうと思う。
魚が好きなダッフルさんへの誕生日祝いの旅行で、
予約した宿も魚料理がおいしいと評判のところだった。
いつか必ず行きたい。


びっくりしたので、この話を友人や親にいろいろ話した。
先に父に話して、とても心配された。
その後帰ってきた母にも、一から同じ話をしたら、
母がつまらなそうな顔をして、すぐ夕飯の食材の話をしだしたので、
なんとなくハッとして、それからこの話をしなくなった。
私はこうして今無事で、普通に生活できているのだから、
本当にそれはつまらない話だと思う。
なんとなく母のこういう無意識にまっすぐなところにいつも
ハッとさせられる。

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母は今年の夏に定年を迎える。
これまでずーっと、夜遅くまで働いていた母。
定年後も働くそうだが、今までのように遅くまで働くことは
なくなるようだ。
この間その話をしていて、よかったじゃん、これから早く帰れてと
言ったら、ニヒルな笑い顔になり、

「9時5時女だ・・・」

とつぶやいていた。

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以前、豆苗を買ってきて料理した後、
切って残った根の部分を水につけておくと、また新芽が伸びて
同じように食べられるようになると袋に書いてあったのを見て、
ダッフルさんが嬉々として育てていた。
そういうのが好きみたいだ。


それから何ヶ月もした後、実家に帰ったときに部屋の隅に
水につかった豆苗が育っているのを見かけた。
母が育てていた。

この2人は前々から性格や嗜好に共通点が多く、
実の親子以上に親子らしいと思っていたが、
このときは、ひょっとして本当に血が繋がっているのかも知れないと
思ったほどであった。ほのぼのした。