堂島ロール

奇跡も語る者がいなければ (新潮クレスト・ブックス)

奇跡も語る者がいなければ (新潮クレスト・ブックス)

12月の半ば頃から、夜寝る前に少しずつ読み返している本。
私は本当に本当にこの本が大好きだ。


作中の女性「わたし」の考えることも感じることも心の声も行動も、
どれも読んでいる自分の体から出てくるもののように思えてくることがすごい。
私は「わたし」と同じ経験をしたり同じ環境にあるわけではないけれど、
いつもどうしようもなく勝手に共感しながら読んで、胸を痛める。


どうしてこの著者は男性なのに、こんなにも女性の気持ちや行動が
わかるのか? 特に「したくもないのにしてしまったこと」に対する苛立ちや
後悔の感覚がとても上手に書かれている。すごく自然に読める。


そしてやはりいつも、おじいさんとおばあさんの部分で泣いてしまう。
本を置いてからもしばらく泣いてしまう。


夜寝る前にこの本を読んでいる時間(そこにホットミルクがあれば尚)は、
私にとって本当に特別な時間で、とても静かな時間だと思う。


さて、今実家に帰ってきている。
28日の仕事納めの日に会社からそのまま帰り、どっぷり過ごしている。
年賀状も書いたり、母の大掃除を眺めたり(たまにちょっと手伝う程度)、
晩御飯を作る母をちょっとひやかしたり(たまにちょっと手伝う程度)、
買い物についていったり(ここでは率先して重いものを持つ係)、
そんな風に過ごしている。
父がいただいたと言って、「堂島ロール」を持って帰ってきてくれて、
コーヒーを入れては切り、入れては切りして食べた。おいしい。


今日は父を残して、母と2人で近くの大型スーパーまで買い物に出かけた。
歩いて出かけたのだが、ついたとたんお腹が空いたので、また少し歩いてラーメン屋に入り、
2人でラーメンを食べた。
おいしかった。


歩いているときに、母の今の仕事についての話をきいた。
母の仕事の内容について詳しく教えてくれたのだが、私がいままでなんとなく思い浮かべていた
仕事と少し違っていて、ぼんやりしていた「大変だね」という気持ちがもっと強く、具体的になった。
今は母は、病院の診療所でケアマネージャーの仕事をしている。
高齢者向けのデイケアや簡単なリハビリテーションの指導(体操など)も
行っていて、そっちのイメージが強かったのだけれど、ケアマネージャーの仕事を細かく教えてもらって
いたら、デスクワークも多く、本当に気を使う仕事なんだなあということを思った。

すごく大変だと言っていたが、


「でも○○病院(母が看護学校を卒業してからずっと働いてきた総合病院。今の職場はその病院の付属)
の看護部長だった時よりずっといいから、最初の頃はモーレツに文句も言わず頑張ったよ。
愚痴をいったら、病院の元同僚に怒られちゃうし」


とも言っていて、なんとなく「ああ」と思って、心にひびいた。
今までの職場と違ったところへ、50歳過ぎてから希望を出して移った母。それから、モーレツに頑張ったこと。
私の父も、同じ医療の世界で職場を移ったけれど、そのときもきっと、モーレツに頑張ったのだなあ。
何も言わずに頑張るっていうこと、私はこんなに近くにいる人たちのことを見てきて、
どうして今までわからなかったんだろう、と思う。


それで私も、


「会社の同僚が辞めちゃうんだ。大学に通って、臨床心理士の資格取るんだよ。
 学校だから、3月いっぱいで辞めちゃんだ。4月がいちばん忙しい時期なんだけど、
 だから私頑張らなくちゃ」


と言った。「あらそう・・・」と母が言ってくれた。だから頑張ろうと思う。



その同僚とは尻高女史のことで、彼女はとても頼りになる人で、
だからその夢や決心がとてもうれしく、応援したい気持ちと、
自分のことやこれからのことが心配で心が曇ったりどきどきしたりする気持ちが、
いったりきたりして、朝や昼や夜にふとあれこれ考え込んでしまうことが多くなった。


だから、こうやって年末年始の休暇に、母から仕事の話をきいたのは良かったと思う。
それから、母の職場の面白い人達についての話もきけて良かった。
みんな長年母と仕事をしてきた熟年女性たちの話で、みんな個性的で強くて、面白い人達だ。
パワーのある人達に囲まれて仕事をしているようで、良かったなあ、母、と思った。


母は緊急連絡用の携帯電話を持ってきていて(当番らしい)、
ずっと首から提げていた。
「ネックレスだと思って、頑張ってるワケ」
と言っていた。
年が明けたら違う人に渡すらしい。緊急の電話はまだかかってこない。
このままずっと何もなければいい。


今日の買い物は楽しかった。
日ごろ欲しいなあと思っていたキッチン用品や生活用品などを購入できて良かった。
肌着も買えて良かった。


母は編み物がここ数日ずっとしたかった、と言って、毛糸屋さんで毛糸を買った。
夜にさっそく編み出して、もくもくとマフラーを編んでいた。
一玉編み終わって、「明日にする」と言って寝た。


母が編み物をしている間、「かもめ食堂」のDVDを見た。母もちらちら見ていた。
これはダッフルさんにお願いしてクリスマスプレゼントにもらったのだが、
私はなんと初めて見た!映画館でも見なかったのであった。
でもDVDを買う映画だと思って、買ってもらった。確かにそうであった。良かった。
アキ・カウリスマキの映画から災難を抜き取ったような映画だった。


マルック・ペルトラは最高に素敵で、彼のシーン(最初にかもめ食堂に来たところ)
がとてもとても良かった。


それから、小林聡美
「人は変わっていくもの。ずっと同じじゃいられない」
というようなことを言って、それに対して片桐はいり
「いい感じに変わっていくといいですね」
と返したところが本当に良かった。
小林聡美が「たぶん大丈夫」と返したところも良かった。


本当によかった。


こうやって、日々の中の心強いことを拾っていくことって、とても大事だし
なんて心強いことだろうと思う。
「あ、これも。あ、これも」
っていうふうに、ちゃんと起こってくれるから、ちゃんと見つけていきたい。
本屋さんにいて、自分の好きそうな本をたくさん見つけるように、
手にとって、大事に持ち歩きたい。それをいっぺんにどばっと手に入れて、
持って帰って、自分の糧にしていきたい。




そんなこんなで、明日は大晦日布施明で「君は薔薇より美しい」です。
見逃すべからず。
今年1年ありがとうございました。


今日はテンちゃんを母と見かけて、嬉しかった。
テンちゃんやっぱり、あなたの尻尾は素敵です。